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阿部幸大『まったく新しいテクスト分析の教科書』を読んでみた

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阿部幸大『まったく新しいテクスト分析の教科書』を読んでみた

ガクコエ!編集長、織田です!
阿部幸大さんの新作を読んだのでどこよりも最速レビューします!

阿部幸大さんの『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』を読んだことがあるだろうか。

2024年に刊行された同書は、レポートや論文の書き方を、個人の才能やセンスではなく、誰でも身につけられる技術として解説した一冊である。大学のレポートに苦戦していた学生のなかには、この本を手に取った人も少なくないだろう。

しかし、文章の書き方を学んでも、なお残る問題がある。

それは、そもそも「何を書けばいいのか」という問題だ。

文献を引用する方法や、パラグラフの組み立て方が分かっても、分析する内容そのものがなければ、レポートは書けない。大学の授業で「この作品を分析してください」と言われても、あらすじや感想しか思いつかず、「それは分析ではありません」と言われた経験のある人もいるのではないだろうか。

前著が、考えたことをどのように文章にするかを扱った本だとすれば、今回刊行された『まったく新しいテクスト分析の教科書』は、文章を書く前に、テクストからどのように問いや主張を生み出すかを扱った本である。

書くべきものを、どうやって発見するかである。

分析とは

分析するとはどういうことか。

本書では分析を「(分解+統合)×解釈」という図式で示している。テクストを要素に分解する。そこに、我々が普段テーマと呼ぶような統合、すなはち、要素ごとの関係を作り出す。そして、それらに、解釈する、それは自分の知っている言葉や理解にパラ・フレーズする。そうすることで、独自の分析の価値を見出すことができる。

分解・統合はテクストの内部にとどまり、解釈は外部に出ようとする志向性を持っているのである。

テクスト分析は3つに大別される

一つ目は、内在「的」に読む方法である。

内在「的」に読むとはどういうことか。テクストの外部に出て分析する、つまり外部の情報(作品がつくられた時代や作家の状況など)を参照するのではなく、テクストの内部にとどまってテクストの内容を分析するということである。テクストに実際に書かれている言葉、構成、反復、対比、語り方などに注目する。作者の経歴や時代背景をすぐに持ち出すのではなく、まず目の前にあるテクストそのものを細かく・ゆっくり読む。

それは、テクストの誰でも気づくところをただ挙げるのでは分析にならない。分析の第一歩としては必要なことではあるが、そこで発見した要素の一つ一つをどのゆに寒けづけるか。そこに、テクスト分析の価値の創出がある。

二つ目は、理論を用いて読む方法だ。

物語論、精神分析、フェミニズム批評、ポストコロニアル批評など、既存の理論や概念を使い、テクストを新たな角度から読み直す。これは、恣意的となりがちな分析に学問は権威付けを与え、客観的なサポートとなる。また、理論を知っていると、テクストを読む際にどういう点に注目すればいいか、一つの指針となる。

例えば、ルネ・ジラールの「欲望の三角形」を用いて分析しようと思ったら、テクストを読むときには三角形的な関係に注目するようになる。

そして、このように理論を用いて、テクストを分析するとなると、「そのテクストでどうしてその理論を使うのか?」は問われることになる。つまり、テクストと理論を対話させ、理論の枠組み自体も問う必要が出てくる。テクストと理論の両方の見え方が変化するような分析が理想的だと著者は述べる。

三つ目は、歴史的状況の中で読む方法である。

作品が書かれた時代の社会制度、政治状況、文化、思想などを参照し、テクストを歴史的なコンテクストのなかに置いて読む。

作品は、歴史や社会から切り離された状態で生まれるわけではない。ある言葉や人物像が、当時どのような意味を持っていたのかを知ることで、現代の読者には見えにくくなっている問題が浮かび上がることがある。

本書が興味深いのは、この三つを互いに無関係な方法として示しているのではない点だ。

テクストの内側だけを読み続けても、その表現が持つ歴史的・社会的意味を見落とす可能性がある。一方で、時代背景や作者の経歴ばかりを説明していては、肝心のテクストそのものが置き去りになる。

重要なのは、テクストの内側と外側を往復することである。そして、テクストの外部を参照するためにも、テクストを内在的に分析する能力は鍛えておかねばならない。

先行研究をどうやって扱うか

自分独自でのテクスト分析も大事ですが、それをレポート・論文として昇華させるには。その方法として先行研究を引用するということがある。

しかし、そもそも先行研究を見つけたところでどうすればいいのか。本書では先行研究自体もひとつのテクストとして分析することを薦めている。そして、その先行研究に賛同するのか、異論を唱えるのか。そのためにも、まずは自身のテクスト分析により自分の論をしっかり固めておく必要がある。

テクスト分析を先にすると、先行研究で自分と同じ分析がされていたらどうしよう。調べてから考える方がいいのでは。

そういう疑問もあるだろう。安心してほしい。本書ではこの問いに対する回答もなされている。

以上、ざっと本書の内容を書いてみた。

感想

本書の中心には、自分のテクスト分析にどのような価値を見出すか、という問題がある。学生が作品を分析するとき、つい「正解」を探そうとしてしまう。

作者が本当に言いたかったことは何か。先生が求めている解釈は何か。すでに研究者によって認められている読み方は何か。もちろん、テクスト上の根拠や歴史的事実を無視して、どのような解釈でも正しいということにはならない。しかし、分析は、隠された唯一の正解を言い当てるクイズでもない。

本書が問うのは、その分析によって、これまで見えていなかった何が見えるようになるのか、ということだ。

ある表現の反復を発見したとしても、「同じ言葉が何度も登場する」と指摘するだけでは価値は生まれない。その反復が作品の構成にどのような効果を与えているのか。既存の研究では、その反復がどのように扱われてきたのか。その発見によって、作品や社会に対する理解がどのように変わるのか。

そこまで説明することで、分析は単なる観察から、価値を持つ主張へと変わる。この考え方は、独自性に対する見方も変えてくれる。独自性とは、誰も思いつかない奇抜なことを突然言うことではない。テクストを丁寧に読み、既存の議論を調べ、その間に見落とされている差異や関係を発見することによって生まれる。

分析する才能がある人だけが、独自の読みを作れるのではない。手順を踏んで対象を読み、比較し、問いを立てることで、独自性を作ることができるのである。


本書には、テクスト分析の方法を理論的に説明するだけでなく、実際のレポート例を添削する部分も付録的に収録されている。ここでは、学生が書いた文章にどのような赤字を入れ、どう改善を促すのかが示される。

分析方法について説明されても、自分のレポートのどこが悪いのかは、なかなか分からない。

主張が曖昧なのか。引用が不足しているのか。引用はあるものの、その後の説明が足りないのか。歴史的背景の説明が長すぎて、作品の分析が消えてしまっているのか。実例への添削を見ることで、本書で説明されていた原則が、実際の文章ではどのような問題として現れるのかを確認できる。特に参考になるのは、レポートを単に否定するのではなく、どこを掘り下げれば分析として成立するのかを示している点だ。

大学のレポートで低い評価を受けても、「内容が浅い」「もっと考察すること」とだけ書かれていては、次に何を改善すればよいのか分からない。赤字添削の部分は、「分析が足りない」とは具体的にどういう状態なのかを可視化している。

本書をレポートの提出前だけでなく、返却されたレポートを見直すときにも活用できる理由である。

最後に

本書はレポートのためだけではない一冊である。『まったく新しいテクスト分析の教科書』は、大学のレポートで困っている学生にとって、実用的な一冊である。内在的に読むこと、理論を用いて読むこと、歴史的状況のなかで読むこと。さらに、コンテクストや先行研究をどのように扱い、自分の分析にどのような価値を与えるのか。「分析してください」という曖昧な指示を、具体的な作業へと分解してくれる。

一方で、本書の面白さは、実用性だけには収まらない。研究者はどのような立場からテクストを読むのか。分析の価値はどこから生まれるのか。人文学は社会に対して何ができるのか。読み進めるうちに、レポートの書き方を越えて、研究や人文学そのものについて考えさせられる。

前著『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』が、価値ある主張を論文としてどのように書くかを示した本だとすれば、本書は、その価値ある主張を、読むことによってどのように生み出すかを示した本である。

文章を書く前には、読む必要がある。

しかし、読むとは、書かれている内容を受け取るだけの行為ではない。テクストを分解し、外部との関係を調べ、そこに新しい問いを見つけることである。

その分析を知りたい大学生・新入生におすすめの一冊だと感じた。

また、本書はテクスト分析というタイトルでありながら、実例として分析するのが、映画『ゴジラ』のポスター分析から始めり映画の分析である。映画というか形のテクストを分析するのである。この点も従来の批評理論を紹介する系の本とは異なる点である。

ここまで、私のつたない言葉でいろいろ書いてみたが、ぜひ、読んでみてほしい。3時間ほどあればざっくり、一読できるので夏休みに読んでみてほしい。

著者のホームページにて一章の試し読みもできるので、気になったらそちらを覗いてみてください。

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